其面影

中年の大学講師小野哲也は、見込みちがいの彼に失望した妻と義母に冷淡に扱われ、生きる興味をほとんど失ってしまう。
ただ一つの光明は、出戻りの義妹小夜子の存在であった。
やがて二人は道ならぬ恋におちてゆく。
――知識人の自己分裂の悲劇を描き、『浮雲』以来約二十年を隔てて文壇への復帰作となった長篇小説。
漱石の小説はおおかた読んでいるという人も、評論や講演となると十分目がとどきかねるのが実情ではあるまいか。
本書は講演記録『文芸の哲学的基礎』『創作家の態度』などを主軸として、他に評論文・談話・初期の文章から文芸論にかかわる作品を選んで編成したもの。
ここに尖鋭勁強な理論家としての漱石像がくっきりと浮かびあがる。
猫を語り手として苦沙弥・迷亭ら太平の逸民たちに滑稽と諷刺を存分に演じさせ語らせたこの小説は『坊っちゃん』とあい通ずる特徴をもっている。
それは溢れるような言語の湧出と歯切れのいい文体である。
この豊かな小説言語の水脈を発見することで英文学者・漱石は小説家漱石となった。
『坊っちゃん』は数ある漱石の作品中もっとも広く親しまれている。
直情径行、無鉄砲でやたら喧嘩早い坊っちゃんが赤シャツ・狸たちの一党をむこうにまわしてくり展げる痛快な物語は何度読んでも胸がすく。
が、痛快だ、面白いとばかりも言っていられない。
坊っちゃんは、要するに敗退するのである。
「しつこい、毒々しい、こせこせした、その上ずうずうしい、いやな奴」で埋まっている俗界を脱して非人情の世界に遊ぼうとする画工の物語。
作者自身これを「閑文字」と評しているが果してそうか。
主人公の行動や理論の悠長さとは裏腹に、これはどこを切っても漱石の熱い血が噴き出す体の作品なのである。
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